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このままでは間違いなく早晩死ぬか殺されると思ったので、

転職することにしました。一応転職先候補は一つ確保できたので、後は引っ越しともう一つの方がどうなるかなーと言ったところです。これまで勤めていた会社は、色々違法だろコレ案件が多過ぎてどうしようもないブラック会社だったのですが、もうこれでおさらばだと思うと全てがなんでもどうでもいいですアッハッハ。
 例の如く体調崩したり復活したり崩したりしていた昨今ですが、地味に前々から好きだったワートリがなぜか突然爆発したようにツボりまして大好きです。
 そんな訳で、追記にリハビリがてら短文をば。何だかとてもお返事とか滞っている気がするのですが、身辺落ち着きましたらば一気に返信をさせて頂きますので、今しばらくお待ちください…。


拍手[15回]


「少年は恋をしている」

 先輩、と声を掛けられて顔を上げると、デスクの前に一人の少年が佇んでいた。
 彼の名前を村上鋼、という。歳は18歳の高校生で、とっくに高校を卒業してもうじき大学院に進みそうな私とは4つも歳が離れている。幼少時代のいついかなる時も、私が彼と同じ学校に通っていたことはなく、そもそも彼は一年と少し前に県外からこの三門市に越してきた子だ。であるから、本来私が先輩と呼ばれる謂れはないのだけれど、私も彼も学校以外に所属する組織があるという一点において、擬似的な先輩後輩の関係にあると言えなくもない。
 界境防衛機関――通称ボーダー。近年増加している近界民の襲撃に対応するべく、4年余り前に結成された組織に、私達は属している。ボーダーには組織の大元となる本部の他にいくつかの支部があり、この鈴鳴支部もその一つだ。鋼くんは鈴鳴支部の設立に併せて県外からスカウトの末配属され、私はボーダー隊員としてそれなりに年季の入った部類なので新設立のフォロー役として本来所属している玉狛支部から出向する形で異動し、1年と少し前にこの鈴鳴支部のビルで顔を合わせた。その時に一種の新人教育のような、ボーダー隊員として基本的なことを教えた関係で、彼は律儀にも私を「先輩」と呼んでいるという訳だ。
 さて、その後輩たる鋼くんと言えば、勤勉実直を地で行く武士系高校生ときている。律儀で生真面目、割合いい加減なところある私をも先輩と立ててくれる、大変にいい後輩なので、まあ、有体に言えば結構可愛がっている自覚はなくもない。
「どうしたの、何かあった?」
 ビルに詰める隊員たちの憩いの場となる事務所に併設された小部屋が、私専用の仕事部屋だ。玉狛支部所属とは言え、本部の開発部とはとある事情によって綿密な情報交換を行う必要があるので、何かと持ち込みの書類仕事が発生する。今も開発部に提出するレポートを書いていたところで、そう言った私の都合を鈴鳴の隊員たちは知っているから、私がこの部屋に篭っている時はよほどのことがない限り放っておいてくれる。それを敢えて覆してやってきたということは、それこそ何か「よほどのこと」があったに違いない。
 パソコンのキーボードを叩く手を止め、真正面から見上げて問えば、何故か鋼くんは少したじろぐような素振りを見せた。
「今度の、土曜日なんですが」
「土曜?」
「はい。……その、もし時間があれば」
 鋼くんの喋り口は、どこか重い。いつもはっきりとした物言いをするのに、珍しい。
 もし時間があれば、って……あ! そうか、最近すっかり手合せとかしてなかった。久々に鍛錬に付き合って欲しいってことかな!?
「いいよいいよ、何本勝負? 10本? 30本? どっちかが音を上げるまででもいいよ!」
 言った途端、鋼くんの、いつも中々表情が表に出にくい節のある顔が、それと分かるくらいに強張った。……あっれ? 何か間違えた?
「ごめん、用件違った?」
「いえ、違う、訳では……」
 律儀系忠犬気質高校生(18)は、生真面目であるからこそ、歳上に対して言葉を選ぶ。これも違うけど否定したらいけない的な自縄自縛に陥ったが故の返事に違いあるまい。
「それじゃあ、勉強の方? っても、この前テスト終わったばっかだったっけ。また順位上がったよね?」
「先輩のお陰です」
「いやいや~、私は時々口出ししてるだけだから」
 鈴鳴支部に常駐する部隊は鈴鳴第一すなわち来馬くんを隊長とした部隊だ。来馬隊は来馬くんと鋼くんの他にオペレーターの今ちゃんに、最年少の太一くんを加えた四人構成なのだけど、その太一くんが曲者だった。悪気なくポカをやって破壊行動を起こすのは日常茶飯事、そんなそそっかしい子なので、案の定学校の成績もお察しである。
 来馬くんは19歳の大学生で、幸いなことに鋼くんに勝るとも劣らない成績優秀具合ということもあって、定期テスト前には太一くん救済特別講座が開かれるのが恒例だ。とはいえ、鋼くんも今ちゃんも高校三年の立派な受験生である。太一くんの面倒を来馬くんに任せて、ちょくちょく私が二人の勉強を見ることもあった。
 で、勉強でなければ、何だろう。4つも歳の離れた、性別も違う先輩後輩で、他に何か用件なんて発生するだろうか。……って、そうか、用件を先回りして当てようとするからいけないのか。ちゃんと喋らせてあげるべきだった、先輩反省。
「えーと、とにかく土曜日は一日空いてるから、大抵のお誘いには乗れると思うんだけど、どうしたの?」
「来馬先輩に、この前新しくできたレストランの招待券を頂きました」
 言いながら、鋼くんが二枚のチケットらしきものを取り出す。流麗なデザインのロゴの印刷されたチケットには、確かにペア招待券と書かれていた。しかもディナーコース。
「ペアなので、来馬隊では行けないですし。折角なので、偶には師弟で食事に行ったらどうかと」
「いや~、私師匠って言えるほど教えてないよ? たまに手合せするくらいだし」
「いえ、先輩は荒船と同じように、オレの師匠です」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいけどね。ていうか、鋼くん別に私に気を遣わなくていいんだからね? それこそ他にもっとお世話になってる人とか、好きな子とか誘った方がいいんじゃない?」
「いえ、オレは先輩が……」
 そっと目を逸らして、鋼くんは言いにくそうに言う。微妙に頬が赤いのは、アレか、照れちゃったりしてるのかな若人よ! 愛い奴よ!
「うんうん、相変わらず鋼くんは先輩を立てることを知ってる出来た後輩くんだな! よし、ここは先輩が一日エスコートしてあげよう! なんか見たい映画とかある? 先輩奢っちゃるよ?」
 そう言った瞬間の、鋼くんの「嬉しいけどそうじゃない」みたいな顔は、一体なんでだったんだろうね。

 翌日曜日の諏訪隊作戦室麻雀の会で、一連の事態を話したら「先輩、それはねえっす」「村上も苦労するなあ」「鋼ももっと押せばいいのにな」と口々に訳の分からないことを言われて、私への熱い風評被害を感じた。世の中は理不尽に満ちている。

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